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カセットテープ・カルチャーの中心を担う店主の1日と仕事観/waltz 角田太郎

根っからの音楽好きが、念願叶って音楽販売の職についたものの時代は逆風。“これでダメなら諦めよう”と飛び込んだインターネットの世界で、音楽のみならず、長年不振だった消費財の販売も経験した角田さん。気づけばバリバリの外資系ビジネスパーソンとなり、仕事でも結果を残し続けた人物は、どのように現在の仕事と向き合っているのだろうか。

カセットテープ・カルチャーにおける世界の中心地


新作をカセットテープで発表するアーティストは、世界的に増加傾向にある。それは何も「アナログでしか味わえない音色」を楽しみたいという欲求だけではない。音楽の配信サービスが主流となるなかで、「何かしら手もとに残る物質(アナログ)を残したい」という考えがアーティスト側にもリスナー側にも芽生えているのだ。

そういった発想は、ひと足先にレコードブームという現象を起こし、プレス工場はどこも混雑、納期に時間がかかっている。しかし、カセットテープであれば素早く、より少ない予算でプレスできることもあって、新人アーティストでも手が出しやすいというメリットがある。その流れが定着したことで、もはやレコードの代替品ではなく、ひとつのプロダクトとしてデザイン的にも凝った商品が増えているのだ。



「毎日のように世界中から新譜カセットの売り込みがあります。うちの店の存在は、世界のカセットテープ・カルチャーの中心に近いと思います」

世界初のカセットテープ専門店を始めたことで、各国から情報が集まってくる。日々、それらを精査しながら、角田さんは何を仕入れるかを決定していく。中古カセット含め、海外からの仕入が多い。英語ができないとこのビジネスは成立しないが、Amazonで英語を駆使していたため、その点は何の問題もなかった。そんな角田さんの主な一日を聞いてみると――。

人を雇わずに、できるところまでやる






「毎朝9時に銀行に寄ってから、9時半にはお店に来ています。その後、取材を受けたり撮影スペースとして貸し出したり、あとは通販の出荷を午前中に終わらせます。12時に昼食をとって開店準備。13時にお店をオープンしてからは店頭ポップの文章を書いたり、Instagramの写真を撮ったり、売り込みがあった音源を聴いたりしています。閉店後は、レジ締めや翌日の準備、在庫の補充などをして21時頃に帰宅。そこから海外の取引先に発注したり、音源を聴いたりしながら深夜2時頃に就寝しています」

waltzでは従業員を雇うことなく、奥さまと二人体制で運営している。

「固定費を抑えるという理由もあります。でも、これに関しては妻と話し合ったんですよ。そうしたら、彼女がこの仕事を一緒にやりたいという想いがあったので、人を雇わずにできるところまで自分たちでやろうということになったんです」



Amazonという巨大組織で、「組織を強くする」「ビジネスを大きくする」という発想を鍛えてきた角田さん。そちらへ舵を切ることも容易にできるが、あえて現在のやり方を大事にしている。

「このビジネスでひと山当ててやろうとか、上場して金持ちになろうとかは考えていないです。お金持ちになりたいなら、あのままアマゾンで働き続けたほうがよほど効率的ですからね」

働き方改革という言葉がひとり歩きしている昨今だが、労働時間において違いはあるのだろうか。

「いまのほうが長く働いていますよ。アマゾンに在籍していたときはサラリーマンだったので土日が休めたり、年に2回はロングバケーションがあったりします。今はそういうものが一切ない。また、月曜が定休日ですが、その時間を使って異業種とのコラボレーションなど、クライアント仕事を請け負ったりもしています」

“絶対に話題になる”という確信があった


飲食店のBGMの選曲やイベントの選曲、最近ではホテルの部屋のプロデュースなど業務は多岐にわたっている。それほどまでに注目されている同店だが、スタート時は店の住所とコンセプトが掲載されている程度のホームページしか持たなかった。その狙いは何だったのだろう。

「よく聞かれるんですよね。僕の場合は、インターネットビジネスに精通していたからこそ振り切ることができた。インターネットを使わずに、どこまでビジネスを拡張できるのか挑戦したかったんです。根底には、“絶対に話題になる”という確信があったんです」



オープン当初はSNSの自社アカウントを開設しない代わりに、店内の撮影は自由というスタンスで取り組んだ。その狙いは見事にあたり、口コミで世界中に拡散されていったのだ。

「口コミが広がる店が、一番信用できると思うんです」

現在はホームページ上での新譜カセットテープ通販および、Instagramをスタートさせている。

「お店のポップは文字が小さいこともあって、読めないという声が結構あったんです。そのために、Instagramを始めました。スマホで暇なときに情報が見られれば、お店に来たときに文字を読まなくて済む。また、フォロワーが増えたことで、“購入したい”という声が集まってきたので、新譜のみオンラインショップを始めてみたんです」

身銭を切って長年取り組んできた趣味(スキ)だからこそ、業界の動向がわかる。ゆえに、話題になることも確信できた。そして、インターネットビジネスを熟知していたからこそ、ツールと割り切って冷静に使いこなすことができた。そして何より大事だったのは、「自分がどういう生き方をしたいのか」ということを見据えていたことにあるようだ。

【waltz】
住所:東京都目黒区中目黒4-15-5
営業時間:13:00~20:00
定休日:月曜
公式サイト:http://waltz-store.co.jp/

text富山英三郎

  • photo下城英悟(GREEN HOUSE)