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物を作るスキルと食べていくスキル。その両立が成功のカギ/TheArth 大熊規文

本業の店舗内装業を支える技術が、他に真似のできないキャンプテーブルを作り上げた。その根底にあったのは、大熊さんが抱いていた「自ら発信したい」という思い。自分のために作った物が、周りから評価され、大きく成長していく過程について、大いに語っていただいた。

発信したい気持ちがどこかにあった


「ヘキサテーブル」をTheArthとしてブランド化し、テーブルの他にも大熊さんが気に入ったキャンプ用品をセレクトしたショップも立ち上げた。本業としての店舗内装業でも忙しく事業を展開しながら、自分の好きなことも欲張りにこなす大熊さん。本業でも十分に満足していたというが、そこにはある部分で満たされないものも感じていたという。

「まだ六角テーブル(ヘキサテーブルを大熊さんはこう呼ぶ)を作る前は、本業の店舗の内装だけだったわけです。設計士さんやデザイナーさんが考えたものがあり、施工業者さんが厳しい納期で依頼してくるわけです。それに応えるだけで、仕事として興奮できていました。それこそ、夏休みの宿題を最終日に片付けるようなシビれる感じ。ただ、それって受信するばかりなんですよね。その時は、このままでいいかと満足しつつも、やっぱり心のどこかに自分から発信したいという思いはありました」



大熊さんの「発信したい」という思いは、ヘキサテーブルによって大きく拡散していった。当初の思いとしては、自分がキャンプで使うのに使い勝手のいい焚き火台を囲めるテーブルができたので、純粋に「いいのができた!」という気持ちでSNSにアップしたという。ただし、それがなぜ広まっていったかについては大熊さんなりの考えがあった。

「まず大事なのは、好きなことが評価されているかどうかです。僕の場合、たまたま僕のものづくりを評価してくれる人がいるから、それがお金になるだけです。例えば、突拍子もないようなバイクのハンドルを手に、『俺、こんなバイクのハンドル好きなんだけど、これを全国で売って歩きたい』って言っても、そのハンドルが評価されてなければダメでしょ」

人に伝えるスキルも備える


自分が好きなことが評価されるには、“スキル”が必要だという。

「よく、スキルが大事とかっていうじゃないですか。何か自分の好きなことでやっていくには、物を作るスキル以上に、食べていくスキルが一番必要だと思います。食べていくスキルというのは、世渡りの仕方とか、物を売るためのセンスもそうだと思います。例えば、僕らの内装業とか、木工家具作る業界には、“ザ・職人さん”みたいな人がたくさんいます。だいたい皆さん、人当たりが下手で、ほとんど喋りません。好きなことでやっていくには、作っただけでは誰にもわからない。いわゆるビジネススキルを前提として、それがなぜ良いのかを人に伝えるスキルがなければいけないんですよ」



よく「好きなことを仕事にすると嫌いになる」なんて言葉を耳にすることがある。そうなってしまうのも、やり方によっては無理はないと大熊さんは言う。

「食べていくためのスキルがないままに、周りの人の評価も聞かずに好きなことだけで突っ走ってしまう人がいます。そういう人に限って、こうしてみたら?という周りのアドバイスに対して、頑なに『いや、自分はこれでやりますから』って受け付けないケースが多いですよね。それで、結局うまくは行かずに痛い思いをする。そりゃ好きなことも嫌いになりますよね」

ブランドは、良い物の後から付いてくる


大熊さんにとって、TheArthをブランド化したことも、ショップを作ったのも、良さを伝えるために必要なことだった。

「ブランドとして作り上げていくと、こちらからお声がけするだけではなく、向こうからお声がかかるんです。『TheArthさん、うちの会社と一緒に何かやりませんか?』って。つまり、それって単に好きで作っていた六角テーブルが、ブランド化したことで世間から認められているということだと思うんです」



最近では、SNSによって自分発信でものづくりをブランド化しやすい環境が整ってはいるが、そこで気をつけなければいけないこともあるのだとか。

「僕の場合は、たまたま自分の私物として作ったテーブルが有名になりました。だから、ブランドは後付けです。むしろ、六角テーブルとかヘキサテーブルていうブランドが、すでにできていたんですね。TheArthというのはあくまで名前に過ぎないと思っています。つまり、何かしっかりした物がなければ、ブランドなんて当然立ち上がらないでしょうし、中身のないブランドが長続きするとも思えないですよね」

好きを仕事にしていくための心構えについて、大熊さんなりの言葉でこうまとめてくれた。

「柔軟性を持って、物腰は低く。とは言え、ゴール地点はしっかりとした芯のある物を設定する。そうしないとブレますからね」

大熊さんにとってのゴール地点は?と問うと、笑いながら一言。

「単純ですよ。稼ぎたい、以上です」

なんだか煙に巻かれたような気もしたが、その笑顔に屈託はないように思えた。



text頓所直人

  • photo下城英悟(GREEN HOUSE)