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「お金から解放されるとすごい楽なんです」黒板アートと並行して、音楽家としても生きる理由/手描きアーティスト CHALKBOY

チョークを使って黒板に絵や文字などを描く、「手描き」を軸としたグラフィックアーティストとして活躍するCHALKBOY(チョークボーイ)。カフェのバイトで毎日黒板を描いていたら、どんどん楽しくなってきて気がついたら仕事になっていたーーそんなスキをスキルにする彼ならではの、充実したライフスタイルについて話しを聞いた。

アートに携わる仕事感とはどんなものなのだろうか




グラフィックアーティストという響きは芸術家を想像させるかもしれないが、仕事の本質は多くの職業と変わらない。クライアントのニーズを探り、様々なオーダーに対応して、それにコミットしていく。

「基本的には、まず打ち合わせをして何を求めているのかを確認します。必要な文言が決まっていればそのまま描きますが、『どんなものにすればいいか?』という相談もけっこう多いんです。それに的確に答えられるように、オーナーやディレクターにインタビューする。その情報を持ち帰り精査して、もしテーマがない場合でも、自分たちでテーマを設定していく。そこからラフを提案して、確認してもらい、制作に入ります。2週間くらいで回せる案件が理想ですが、最短で3日くらい、最長だと1か月くらいかかるものもあります」

「仕事で大変なことはあるか?」――と質問したら、こんな答えが返ってきた。

「基本的に描くことは楽しいです。描くことというのは純粋な快感の一つだと思っていて、僕はそれを運良く仕事にできている。仕事として苦しいなって思うことは、もちろんありますが、内容的に嫌だと感じるものはありません」



一方で、実はスケジュールを安易に組み込む自分自身に困っていたこともある、と打ち明けてくれた。

「大体2週間前の自分に対して『ふざけんなよ』って思いますね(笑)。例えば、取材、打ち合わせ、見積もりとか性格の違う仕事を組んでいて、同時に移動するとか予定していたこともある。自分に対して、それは無理だろう! って。最近はWHW!(チョークボーイさんが率いる手描き集団)でスケジュールを共有しているので、スタッフが止めてくれて本当に感謝しています」

チョークボーイさんは現在、神奈川県の葉山に自宅を構える。取材に伺ったWHW!の店舗やアトリエは中目黒にあるので、通勤距離はそこそこある。もちろん自宅にもアトリエを持ち、時には自宅で制作を行うこともあるそうだ。WHW!の従業員に対しても、店頭作業以外は勤務時間の縛りを設けていないという。



「朝は7:30くらいに起きて、家族と一緒に食事をして8時には今年4歳になる子どもを幼稚園に送り出します。そこから中目黒に出勤して、出社するのが10時から10時半くらいですね。そこから制作をしたり、取材や打ち合わせに行ったりする。仕事がひと段落するのは午後6時から7時くらい。寝るのは12時くらいですね。忙しいときには、帰れずにそのまま寝袋で事務所に泊まったりすることもありますよ。休みは月に6日くらいは取るようにしています」

自宅から職場までの移動手段は、車と電車でケースバイケース。荷物が多ければ車を選び、時間のタイミングが合えば週2~3回は電車を使うこともある。

「電車のメリットは仕事ができること。揺れるので描くことはできませんが、メールの返信をしたり、頭の中で考えることには向いています。乗っているのが1時間くらいだからちょうど良いんです。もし2時間だと眠くなっちゃう。一方、車だとそうした作業はできない。考え事も危ないので、ラジオを聴いています。ただただ好きな番組をradiko(ラジコ)で聴く。車だと一人だから声を出して笑っても平気なので、良いリフレッシュになっています」



フリーランスになってから一度、広島の尾道に住んでいたこともあったそうだ。ただ、結果的に働きづらかったため、首都圏に戻ってきたと話す。

「一度地方に住んでみて気づいたのは、地方から地方に行くのがすごい難しいということ。移動の時間がむちゃくちゃ多くなるんです。それでも仕事はできるんですけど、ほとんど自宅にいないという状況になってしまいました。月に1/3くらいしか家にいないとか。酷いときには5日くらいしかいられなかった。体力的にもきつかったし、家族にも悪いと思ったんです。だから今は葉山に引っ越してきたんです」

実は音楽家という一面も持っている


手描きアーティストとして活躍するチョークボーイさんだが、実はもともと好きだった音楽にも並行して取り組んでいる。こちらでは「henlywork」(ヘンリーワーク)というアーティスト名で活躍中だ。一般的に言う「音楽家」の定義よりは、コンテンポラリー・アーティストにも近い印象を受ける。前回の記事でも紹介したように、映像と音楽を掛け合わせたようなジャンルを留学時に学んでおり、このバックグラウンドが活きているという。

「アルバイトをしていた時代から並行して、ファッションショーの音楽を担当する仕事もやっていました。たまたまロンドンでファッション系の友達ができたので、その人からの依頼を年2回くらい請けていたんです。あとは友人が作った映像に音楽を提供したりとか。その中で、壊れたおもちゃとか、鳴らなくなった楽器とかをテーブルに置いて鳴らしてみて、サンプリングして音楽に組み立てるライブパフォーマンスをやったんです」



その後、料理開拓人の堀田裕介さんや、絵本作家の谷口智則さんと一緒に、食材を調理する音を用いてパフォーマンスをするイベントを開催。それがデザイン会社のgraf(グラフ)の目に留まり、同社でイベントを開催してほしいと依頼されたという。

「このイベントに名前を付けなくちゃとなりまして『EATBEAT!』というのを提案したんです。そこからその時のイベントを見た人が呼んでくれるようになって、EATBEAT!に関する活動も少しずつ大きくなっていきました」

一方でこうした音楽活動では、あえて儲けは度外視している。あくまでライフワークとして捉えており、手描きと音楽の比率は9:1程度なのだとか。

「予算が付けば付くほど、イベントを面白くするための出費が増えちゃいますね。生活としてはグラフィックアーティストで食べられているので、EATBEAT!は赤字にさえならなければ良い。最近はうっすらと黒字になってきたけれど、モチベーションの保ち方としてはちょうど良いかもしれません。『お金』から解放されるとすごい楽なんです。利益を出すにはブランディングが必要になるけれど、それには気負いが必要になる。『EATBEAT!』はそれがないからずっと低空飛行していて、でもその低い景色も悪くないかなって感じています」

CHALKBOYであり、同時にhenlyworkでもある――。自身が好きでやっているならば、音楽に携わる割合は小さくても別に良い。そんな考え方はとても素敵だ。

「働いている時間と自分のための時間って別で良いと思っています。例えば、ロンドンの人は1/4が自称アーティストなんですよ。全員がフルタイムのアーティストではなくて、その9割以上が普通の会社で働いている人たち。本人がそう思っていれば良い。関わっている時間とか働いている時間とか、稼いでいる額とかは、自分の認識と差があっても大丈夫なんです」

スキなことに本気で取り組む――。それは一見難しそうに感じるが、チョークボーイさんのように必ずしも1つのことにネエルギーの100%を費やす必要はないと考えれば、もっと柔軟な発想につながるかもしれないと思えた。



text井上晃

  • photo千葉 顕弥