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雑誌の枠を超えて。新たな体験を生み出すメディア「PAPERSKY」の作り方

2020年1月12日(日)、13日(月・祝)の二日間にわたって、東京・表参道のBA-TSU ART GALLERYで開催するd365のマーケットイベント「サンロクゴ商店街」。本連載では、このイベントにご参加いただくショップやブランドの魅力を深堀りインタビュー。今回紹介するのは、“地上で読む機内誌”をコンセプトに掲げる雑誌「PAPERSKY」。

雑誌内の特集でピックアップされる旅は、いつも「PAPERSKY」らしさに溢れている。切り抜いて飾りたくなるような美しい写真と、読み応えのある文章で、読者の“体験”への欲望を掻き立ててやまないこの雑誌を作るのは、アメリカ・カリフォルニア州育ちのルーカス・B.B.さん。2002年の「PAPERSKY」創刊前のことから現在の活動に至るまで、たっぷりとお話を聞いた。



場所と人とテーマと。その掛け算が新しい体験を生む




旅行に関する雑誌は数あれど、旅のテーマ、その旅を共にするゲストのセレクション、そして目的地、そのどれもが絶妙なバランスとなっている唯一無二の媒体がある。“地上で読む機内誌”をコンセプトにしている「PAPERSKY」だ。これまでに刊行された号のサブタイトルを少しだけ見てみたい。

『山、海、大河、砂漠に抱かれて モデルの高山都さんと 自転車で巡るオレゴンの旅』(no.61)
『奈良美智さん、福田春美さんと北海道へ 人と大地の豊かさに触れるドライブの旅』(no.60)
『山と道の夏目彰さんと台湾ハイク&バイクの旅 自然と文化と人々の優しさに触れる1週間』(no.59)
『菓子研究家・長田佳子さんと “フィーカ”の国、北欧スウェーデンへ』(no.55)

それぞれの旅の誌面を開いてみると、ゲストがその土地とテーマを心から楽しむ様子が、素敵な写真と共に綴られる。ゲストと一緒に旅をしているのが、「PAPERSKY」を2002年に創刊した編集長のルーカス・B.B.さんである。

「毎号どんな旅にするか考えるには3つの要素があります。場所と人とテーマ。どれを先に決めるということはなくて、この人と旅をしたいなと思ったら、どんな場所がいいだろうとテーマと一緒に考えるし、場所が先に決まる場合もあります」

「PAPERSKY」に込められた思い




創刊から15年間考え続けた場所もあるという。ただ、いいテーマが浮かばずに実現できていなかったそうだ。その場所はスウェーデン。

「今の時代はインターネットがあるから、他にない情報や切り口がないと雑誌として出す意味がないんじゃないかと思います。スウェーデンについて、15年かけて見つけたテーマが『フィーカ』です。フィーカとは、簡単に言うと家族や仲間とお茶をすること。スウェーデンの人は1日に2回はフィーカをします。朝10時頃と午後2時頃。どんな忙しい営業マンも、銀行だろうと小さな会社だろうと、この時間にはみんな一息つくための時間を作り、一人でゆっくりと過ごしたり、仲間とコーヒーを飲んだりするんです」

「PAPERSKY」のno.55で実現した企画では、ルーカスさんが気になるスウェーデンの人たちにフィーカをしてもらい、それぞれの活動や生活について語ってもらっている。

「フィーカをすることで人の付き合いが自然になり、人との距離感、向き合い方が違ってくるんです。いわゆる会議で何かいいアイデアを出そうとしても難しいけど、フィーカが生活の中にあると、そんな話し合いも自然な流れの中でできる」

旅の雑誌でありながら知らなかった世界をカルチャーごと見せてくれる「PAPERSKY」。ルーカスさんは、何を思ってこの雑誌を作っているのだろう。

「僕の中にある『平和』というキーワードが、伝えたいテーマだと思います」

「PAPERSKY」の表紙には毎号、アイコンとして一風変わった世界地図が載っている。



「アメリカの思想家でデザイナーのバックミンスター・フラーが作ったダイマクションマップといって、切り抜くと地球儀になります。今でも一番精密にスケール感を表現していると言われているんだけど、何より面白いのが、このマップでは誰がマップの真ん中ということがない。地球儀だからね。それに世界が繋がっていて、みんなひとつの地球にいることが分かる。自分のいるところが大事、でも自分がいないところも大事で、それぞれをリスペクトし合うことが平和につながるんじゃないかな」

こうした話をするが、「PAPERSKY」を開いて見ても説教じみた雰囲気はまるでない。それでも「PAPERSKY」を眺めていると、ルーカスさんの言う「ライフスタイルやカルチャーを通じて、お互いに興味を持って理解し合う」という言葉が自然に思えてくるのである。

少年時代から作り続ける雑誌への思い




アメリカ・カリフォルニア州育ちのルーカスさん。初めての雑誌作りは小学生の頃にさかのぼる。小学4年生の時に、カリフォルニア州にある小学校がエントリーする雑誌のコンテストで、ルーカスさんが作った雑誌が、4部門中3部門で賞を獲得。以来、雑誌作りにのめり込み、大学を卒業するまでに数多くの雑誌を作ってきた。

大学卒業後すぐに、何のあてもなく小さなリュックサックひとつで来日。初めての海外旅行だった。2週間の旅行のつもりが、93年の来日から気がつけば四半世紀が経った。

「1年間は子どもに英語を教えていました。でもある時、幼馴染みの友人から『ルーカス、なんで今雑誌作ってないの?』と言われて、『あー、そうだ』と(笑)。すっかり忘れてたんだよね」

アメリカから来たルーカスさんが見る日本には、感動することがたくさんあった。若い人たちのカルチャー、音楽、アート、ファッション……。でも、90年代半ばの日本の若者は海外にばかり目を向けていた。

「面白いことをやっている日本人はいっぱいいた。もっと日本を盛り上げようと雑誌を作りました」

それがストリートカルチャーを発信する雑誌『TOKION』。伝説と言われる雑誌は、ルーカスさんの手によって生み出されたのだった。

旅を楽しくしてくれる物語を持ったモノたち




23歳で立ち上げた『TOKION』だったが、30歳になり、若者文化を発信するのに、“おじさん”が計算して若者らしく作るのはどうかという思いから、潔く『TOKION』から離れた。

「でも、雑誌を作るのは好きだからどうしようかと思って。旅であれば年齢関係ないし、日本のカルチャーも人も、昔からある大事な文化も紹介できるし、ずっと作れるんじゃないかなと」

そうして、2002年に「PAPERSKY」が誕生した。10年ほど前からは、雑誌のみならず自転車で日本各地を巡る旅「PAPERSKY Tour de Nippon」をプロデュースしている。

「『TOKION』を作った時は、雑誌が一番旬な時代だったけど、今はちょっと違う。でも、それでは雑誌に未来はないから、体験するメディアにできたらいいなと思って、『PAPERSKY Tour de Nippon』を始めました。日本の地方にも割といっぱい行ってるし、知り合いもたくさんいるから面白いコースも組める。自転車のスピードで走ると、地方での再発見もいっぱいあるんですよ」



雑誌の枠を超えて、新たな体験を生み出している「PAPERSKY」には、旅にまつわる色々なグッズを並べているオンラインショップ「PAPERSKY Store」もある。

「旅にフォーカスしたトラベルツールを作れたら面白いんじゃないかと思って。実は雑誌の良さを伝えるのには時間がかかる。本屋さんで雑誌を見てもらうだけじゃわからないことも多い。でも、モノは早いよね。いいねってすぐに思える。旅に特化したモノを作れば、『PAPERSKY』のことを知るきっかけにもなるからね」

これまでアパレルから小物、雑貨に文具と、旅をテーマにしたアイテムが数多くリリースされている。気鋭のデザイナーやブランドとのコラボや、地方の伝統技法で作られる逸品まで、商品ラインナップの幅は広い。ただ、共通するのはどのモノの背景にも、語るべきストーリーがたっぷりあるということ。作った人の思い、それを「PAPERSKY Store」で販売することの意味など、聞いたが最後、そのモノを欲しくなる話がルーカスさんから語られるのである。

体験を通じてこそ味わえること。その入り口が「PAPERSKY」にはたくさんある。まずはページを開いて見てほしい。きっと心にひっかかる何かがあるはずだ。

【マーケットイベント『サンロクゴ商店街』】
日時:2020年1月12日(日)10:00~20:00
2020年1月13日(月)10:00~18:00
場所:BA-TSU ART GALLERY(150-0011東京都渋谷区神宮前5-11-5)
入場料:無料(事前登録が必要となります。こちらよりご登録ください。)
主催:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント

text頓所直人

  • photo下城英悟(GREEN HOUSE)