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アカデミー賞受賞の問題作『ブラック・クランズマン』の最高な音楽や批評性をアーティストが解説!

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

今回は、実話を基にブラックムービーの巨匠が監督した問題作『ブラック・クランズマン』を観てきました。原作も読んだ小出部長による解説込みの感想なので、時代背景がわからなくてもこれを読めば大丈夫!

みんなの映画部 活動第51回[前編]
『ブラック・クランズマン』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子


アフリカ系アメリカ人の歴史や社会背景を踏まえた映画がすごく白熱している

──「みんなの映画部」第51回です。今回はカンヌ(国際映画祭グランプリ)とオスカー(アカデミー賞脚色賞)の両方に輝いた『ブラック・クランズマン』。まずは小出部長からひと言お願いします。

小出 すごい良かったです! しかしこれ、どうしゃべったらいいか悩んでます。やっぱりスパイク・リー監督の個性を核にして話すのがわかりやすいのかな。『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)や『マルコムX』(1992年)……。

──ブラックムービーの切り込み隊長と言いますか、黒人のリアルカルチャーをメインストリームに押し出した代表的な映画監督ですね。もうキャリア30年以上になるベテランの巨匠です。

小出 代表作はひと通り観てると思います。『ドゥ・ザ・ライト・シング』はすごい好きですね。しかも今回の『ブラック・クランズマン』は製作がジョーダン・ピールっていう『ゲット・アウト』(2017年)の監督。ジョーダン・ピールが先に映画の企画というか権利を持っていて、それをスパイク・リーにお願いしたっていう順番らしいです。

つまりはブラックムービーの今いちばんホットな人が、リスペクトする大先輩に声をかけて、最強のドリームタッグが出来上がったっていう経緯ですよね。

福岡 ブラックムービーっていうのは、スタッフ・キャストとか内容が黒人メインの映画、っていう意味でいいんだよね?

小出 ま、そうっちゃそうなんだけど、特に最近、アフリカ系アメリカ人の歴史や社会背景を踏まえた映画がすごく白熱していて。やっぱりトランプ大統領の時代になってから人種差別問題が深刻に再燃しているから、そこに対する映画界からのメッセージを感じますよね。

今年のアカデミー賞絡みでも『ビール・ストリートの恋人たち』とか、あと監督は白人だけど作品賞を獲った『グリーンブック』とか。マーベルも『ブラックパンサー』があるし、長編アニメ賞を獲った『スパイダーマン:スパイダーバース』も主人公の少年は黒人だった。

──その流れを受けて、スパイク・リーというブラックムービーの親玉が本領発揮できる時代がまたやってきたという言い方もできますね。『ブラック・クランズマン』に関しては、やや停滞気味だったスパイク・リーの完全復活! という論調がアメリカのメディアでもよく流れていました。

 

ブラックスプロイテーション映画のフォーマットを踏襲している

小出 今回のアカデミー賞では『ブラック・クランズマン』は脚色賞を獲っているわけですけど、ベースになっているのは一応実話なんですよ。原作も読んだんですけど、実際には1978年10月から翌1979年4月までの話。でも、映画を観ると1972年の設定に置き換えられていた。

ここで6年のサバを読んでるのって大きな意味があるなと。というのも、主人公の黒人刑事ロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が会話のなかで「『黒いジャガー』(1971年)と『スーパーフライ』(1972年)のどっちが好きだ?」って言ってましたけど、あの2作は「ブラックスプロイテーション映画」(1970年代初頭に流行した黒人による黒人のための商業映画)の代表作。

切れ者の黒人が悪い白人を倒すっていう型が多いんですけど、『ブラック・クランズマン』はそのフォーマットを意識的に踏襲していますよね。物語を彩るソウル、ファンクミュージックだったりとか、ファッションもアフロヘアでギラギラな感じでね。

劇中で使う音楽面から考えてみてもなるほどと思って。それこそ『黒いジャガー』も『スーパーフライ』も、ソウル・ファンク視点でもサントラが名盤として有名なんですけど、1978年~79年ぐらいになると、ファンクから進んでディスコの時代──そのディスコもブームの後期に差し掛かってるような頃なんですね。

例えば、シックの登場は1977年。で、そのシックの「グッド・タイムス」をまんま使って、ヒップホップというジャンルの最初のヒット曲、シュガーヒル・ギャング「ラッパーズ・ディライト」が生まれるのは1979年の話。

みんな大好き『ボヘミアン・ラプソディ』に出てくる1980年クイーンの「地獄へ道づれ(原題:Another One Bites the Dust)」も、同じシックの「グッド・タイムス」が元ネタね(笑)。

プリンスは1978年にデビューしていて、1979年には『Prince(邦題:愛のペガサス)』が大ヒットする。で、同年にいよいよマイケル・ジャクソンが『オフ・ザ・ウォール』を出す。

──言わば黒人音楽がポピュラーなものとして、白人はもちろんアジアも含めて世界的に受け入れられる時代の到来ってことですね。

小出 音楽の時代も次のタームへ入っていくんですよ。だからちょっと歴史を巻き戻して、時代背景を入れ変えているというのは、映画の訴えたい内容としても、映画自体のテイとしても重要な脚色。1972年を舞台にすることで、すべてに必然的な意味を持たせてある。

 

福岡 なるほどなあ。それは説明されないとわからんかった。基本的なストーリーというか筋道はすごくわかりやすいやん。刑事のチームが怪しい団体に潜入捜査する話。だけどバックボーンになっている情報量がえらい多いから、観ながら「あれには本当はどういう意味があったのかな?」って思うことが結構あった。

小出 その上乗せしている情報の最たるものが『國民の創生』(1915年)っていうサイレント映画のこと。これはのちの映画の基礎となるような技術を確立した古典映画で、映画史的には大変貴重な名作なんですよ。

ただ内容的には、ロンたちが潜入捜査する白人至上主義の団体、KKK(クー・クラックス・クラン)を礼賛するプロパガンダ(宣伝)映画。原題は『The Birth of a Nation』ですけど、原作は『The Clansman』ってタイトルですからね。

1873年に第1期KKKは消滅していたんですけど、まさに1915年、移民の波が押し寄せてきた時代を背景に、アメリカニズムの推奨を掲げる第2期KKKが再結成されて。再結成をしたウィリアム・シモンズは会員数を伸ばすために、この映画のチケット売り場でKKKの宣伝をしたりしてたんですって。

三角巾と白装束っていうイメージもこの映画から広まったものだと。第1期では、緋色基調のローブに三角帽に不気味な覆面っていうような格好が多かったらしいです。

──言わば「白人主義史観」に支配されていた映画史を、スパイク・リーが黒人の側から再検証するっていう意図がありそうですね。

小出 まさに。そして、劇中に登場する、「KKKの騎士団」の元・最高幹部だったデービッド・デュークはドナルド・トランプの支持を表明していて。移民に対する排斥的な立場も、トランプの政策と繋がってきますよね。そういうスタンスの人が支持しているのがこの国の大統領なんです、映画と現実の問題は地続きなんですと。

映画冒頭も、トランプのものまねコントで有名なアレック・ボールドウィンが登場してるので、トランプ始まりでトランプ終わりの構成なんだよね。

福岡 それで星条旗が逆さまになって出てくる。強烈な風刺やな。

小出 うん。『告発のとき』(2007年)っていう映画でも、最初と最後に逆さまの星条旗が出てきて、それがすごく印象に残るんだけどね……。法律で逆に掲げちゃいけないって決まっている星条旗を、あえて逆に掲げるときは「生命や財産に極度の危険が迫っている際、その危険を伝える目的」なんだって。すっごい切実な政治映画でもあるんですよ。日本でもこういう映画作ればいいのにね。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

レコーディングから劇場に駆けつけ、ほとんど何も食べてないという小出部長。小出家一族は、お腹が減っていると機嫌が悪くなるとのことなので、今回はゴハンを食べながら感想会をすることに。

 

[後編](2019年4月9日(火)配信予定)に続く