TOPM-ON! MUSICアーティストが自身のヲタ活と照らし合わせ...

アーティストが自身のヲタ活と照らし合わせながら、公開中の映画『あの頃。』を激賞する

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

監督は『愛がなんだ』で話題を集めた今泉力哉が務め、先日公開されたばかりの劇場映画『あの頃。』。劇中の主人公のように思春期からハロプロに熱狂してきた小出部長たちは、この映画をどう受け止めたのだろうか。

みんなの映画部 活動第73回[後編]
あの頃。
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)


劇中に散りばめられたハロプロネタを小出部長が解説する[前編]はこちら

ハロヲタの人も、そうでない人もしびれる青春映画

ハマ ハロヲタ映画としてディテールもぬかりがないんでしょうね。

小出 さすがに相当気を遣っていると思いますけどね。例えば、CDショップのポスターに、田中れいな、夏焼雅、鈴木愛理のユニット・あぁ!の「FIRST KISS」という曲のポスターが貼ってありましたけど、2004年はBerryz工房のデビューという大きなトピックもあるわけですよ。

ハマ 劇中で「恋愛研究会。」のメンバーが大学の学園祭に呼ばれたシーンですよね。

小出 Berryz工房のデビューシングル「あなたなしでは生きてゆけない」の話をしてました。この曲のトラックはJAY-Zの「I Just Wanna Love U」が元ネタで、黒いオケの上で子供たちが歌ってるというかけ合わせがすごい……けど、つんく♂さんのコーラスの音量めちゃでかいっていう曲です。

若葉竜也さん扮する西野くんが「しみハム最高しみハム最高」って言ってましたけど、「しみハム」っていうのは、メンバーの清水佐紀さんのこと。当時やってた『ハローキッズ』っていう番組で、矢口真里さんにつけられたあだ名なんですけれども。

ハマ 愛称の由来までありがとうございます(笑)。

小出 このへんの描写に、当時の自分を思い出しちゃった。僕は学生時代にクラスのみんなが『ASAYAN』を観てたし、モーニング娘。とかハロプロの人たちがJ-POPの最前線におどり出たのも経験してるからさ、初期のハロプロは流行ってる音楽として聴いてて。ただ、2004年頃は、正直「ブームが落ち着いた」くらいに感じてたのよ。それが、まさにBerryz工房「あなたなしでは生きてゆけない」で、アイドル音楽って面白い!って発見になったの。

当時ね、Base Ball Bearの『HIGH COLOR TIMES 』ってアルバムの制作をやっていて。バイトから帰って来たら夜中は毎日のように曲を作ってたんだけど、今と違ってパソコンとかないからさ、なんか部屋がシーンとしてイヤなわけ。だからテレビを消音で点けっぱなしにしてたの。でさ、朝が近付いてくると、どのチャンネルもカラーバーになって、テレ東でミュージックビデオがずっとかかってる時間帯になる。そこでたまたまBerryz工房の「あなたなしでは生きてゆけない」が流れたときに、「なんか妙に小さい子たちが歌ってるなぁ」と。それを無音で画だけ眺めてて。

ハマ 当時、菅谷梨沙子さんは9歳だからね。

小出 だから当時、菅谷梨沙子さんは9歳なの。

ハマ うおー!

小出 ただ、無音で観てるだけだからまだ曲は聴いてないわけ(笑)。でも、あまりにも毎日毎日そのビデオが流れてるからさすがに気になってきちゃって、ついに音量を上げてみたら「なんだこれ!?」って衝撃を受けたんです。

雑誌『BUBKA』でライムスター宇多丸さんによるアイドルソング時評の連載『マブ論』もずっと読んでたから、アイドルソングの聴き方や構造に関してはすごく興味があったし、これですごく一致した感じがあったんですよ。「こういうことか!」と。それから『BUBKA』のバックナンバーと照らし合わせるようにハロプロを聴き直したりもしてね。

オンライン取材中、スッと私物の書籍『マブ論』を見せてくれる小出部長。

──『あの頃。』の登場人物のなかにいるようなシンクロぶりですね。

小出 仲野太賀さん扮するコズミンは、原作だとPerfumeに流れていくような描写がありましたけど、同時期に『マブ論』で絶賛されてたのを読んで僕もPerfumeにハマっていきましたね。

あと、『あの頃。』原作のサブタイトルは『男子かしまし物語』っていうんですけど、モーニング娘。に「女子かしまし物語」って曲があるんですね。

福岡 なるほど。

小出 「女子かしまし物語」っていわゆるメンバー紹介ソングなんです。一人ひとりを他己紹介していって、次は誰々、次は誰々ってリレーする曲なんですけど、『あの頃。』の語りのスタイルはまさに男子かしまし物語ですよね。一人ひとりのいろんなエピソードが詰まってる。

福岡 ハマさ、映画のなかでそういう小ネタが散りばめられてるってわかった?

ハマ 知ってることはありましたよ、多々。ただ本当にハロプロ好きじゃないと知らない情報とかは全然わかってないと思う。そのへんはキリがないってことですよね、たぶん。

小出 うん、挙げていくとキリがない。AV女優さんとの2ショット撮影のシーンに、Wのピースやりますよね。そのあとに「うさちゃんピース」ってのをやってますけど、これ道重さゆみさんの決めポーズなんです。

ハマ なるほど、ダブルでハロプロネタだったっていう。

──作家の阿部和重さんがガチのハロヲタで、2005年の芥川賞授賞式で「うさちゃんピース」をキメたことも話題になりましたね(笑)。

小出 ちなみにあのシーンで事務所スタッフさんらしき人を演じていたのが、ぱいぱいでか美さんでした。

ハマ へえ。カメオ的なとこで言うと、怒髪天の増子直純さんはわかりやすかったけど。

福岡 ああ、たしかに。増子さんはすぐわかったね。

 

青春映画でもあり、壮大なハロプロサーガも描かれていた

小出 あと素晴らしいなと思ったのは、劇中に「松浦亜弥さん(役)」が登場するんですよね。ファンクラブ限定の握手会のシーンで。演じているのは山﨑夢羽さん。BEYOOOOONDSのメンバーです。

ハマ 俺、あややさんは顔出さない演出にするんだろうなって思ってたんですよ。

福岡 私もそう思ってた。似てたよね、顔。笑顔がめちゃくちゃ似てた。

小出 びっくりするくらい似てたよね。山﨑さんお母さんが松浦亜弥さんのファンだったらしくて、小さい頃に曲を聴いてたと。その子が今ハロプロに入っていて、松浦亜弥さんの役をやってるっていう。壮大な流れですよね。

ハマ 壮大ですね。ハロプロサーガの。

小出 ハロプロサーガです。

ハマ 俺、アイドルのトークイベントに関してはまったく知らないので、そういう空気も今回初めて知れたのも良かったです。個人的に感動したのは、主人公の劔さんがそのあややさんの握手会に参加できる抽選が当たるシーンあるじゃないですか。あそこで劔さんがびびっちゃって「俺、行ってもいいんですかね?」って悩んでるときに、コズミンが「毎日楽しく生きられてるのは松浦亜弥のおかげだろ!」「ちゃんとあややの目を見て、“いつもありがとうございます”って言いに行かないと失礼だろ!」って言うんですよ。あの考え方はすごいなと思って。

福岡 わかる。

ハマ 神聖なものを見たっていうか。その純粋なファン心理に、すごいグッと来て。

小出 自分と『あの頃。』が決定的に違うのは、まったく現場には行かなかったことかなぁ。CDとDVDのみでした。

ハマ ただやっぱり、これは別にアイドルオタクだけの話じゃなくて、本質的には青春映画ですよね。原作でも映画でも「中学10年生」って言い方してたけど。

小出 そうなんだよね。そこがこの映画の素晴らしいところだと思う。描かれるのは、遅れてやってきた青春とモラトリアムの終わりというか。みんないい年齢になって、就職したり結婚して子供産まれてっていう人も出てきたりとか、それぞれの人生が進んでいく。青春の祝祭はずっと続くわけじゃなくてね。いつか終わらなきゃいけないし、振り返ってみたら一瞬のことだったり。

「あの頃、おもろかったな、でも今、泣いてる自分もおもろいんちゃう」っていうあの台詞ね。“あの頃”はたしかに眩しかった、でも“今”も悪くないじゃんと肯定する。その眼差しにグッときちゃう。

ハマ かけがえのない時間を共有していた仲間だからこそ、離ればなれになっても“今”を肯定できるのかもしれませんね。その意味でもコズミンっていう曲者のキャラクターは、本当にこの物語のキーパーソンだと思います。

福岡 そうだね。コズミンのキャラクターによってすごい人生について考えさせられたもんな。

小出 改めて趣味っていうのは、もしかしたら“人生の道草”なのかもしれないけど、これがあるから道を進むことにも彩りが出てくるんだよね。だから僕はずっと映画が好きだしさ。逆に“道草してもらうこと”が仕事でもある僕らからしたら、この映画みたいに、自分たちの音楽を通じて友達ができたり、青春を感じたり、節目節目で曲を聴いてくれたりしたら、こんなにうれしいことはないよね。

TEXT BY 森 直人(映画評論家)